ありのままの自分を愛そう、という“ボディ・ポジティブ”な価値観が世の中に広がりつつあるものの、「もう少し鼻が高ければ」「もっと小顔だったら」「ぱっちり二重だったら」と、コンプレックスを抱え続けている人は多いだろう。

実際、日本における美容医療市場は2010年に2,384億円を記録して以降、2014年に2,833億円、2017年に3,252億円と、年々伸長している。美容医療には、外科手術を伴う美容整形はもちろん、レーザーによる脱毛やシミ除去といった美容皮膚科なども含まれ、“エステ感覚”でクリニックに通う人も増えているという。

国際美容外科学会(ISAPS)の調査によると、2017年に行なわれた日本における美容整形の件数は約168万件に上り、これはアメリカ、ブラジルに続く世界第3位の実績となっている。ただ、たとえばブラジルが外科手術を伴う美容整形が全体の60.4%なのに対し、日本ではわずか17.5%。ヒアルロン酸注入やボトックス注射といった、いわゆる「プチ整形」が多くを占めるのだ。

“泣きながら注射を打った過去”──不安な患者に情報を

「お化粧するたびに鏡を見ている女性たちにとって、美容整形する動機はあくまで“自己満足”のため、ということが意外と多いんです。もっとクマが薄くなれば、小ジワが減ったら……と、『もう少しこうだったらいいのに』という悩みが一つ解消されただけで、人と会うのも出かけるのも楽しみになる。私自身もそんな感覚でした」と話すのは、美容クリニックのクチコミアプリ「トリビュー」を運営する株式会社トリビュー代表取締役の毛迪(もう・でい)氏だ。

毛氏は中国出身で、5歳から日本で育った。立教大学卒業後、株式会社リクルートマーケティングパートナーズに入社し、『ゼクシィ』で結婚式場の広告戦略立案や広告制作ディレクションに従事。その後ベンチャーキャピタルで大企業向け新規事業立案や出資先支援などに携わった後、2017年7月にトリビューを設立した。

「人生の大半を仕事に使うなら、自分が本当にやりたいと思えることをやるのが、自分自身のキャリアにとって良いことなのではないか、と。そう考えたとき、私の人生をポジティブなものにしてくれた美容医療を事業にできないかと思うようになったのです」

さかのぼること10年前、毛氏がはじめて美容整形を行なったのは、18歳の頃だった。

「ヒアルロン酸注入とかレーザーとか、今も軽めの施術を継続してやっているんですけど、最初の頃は全然情報がなくて、2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)とかYahoo!知恵袋を読むくらいしかなかったんですよね。掲示板を10年近くさかのぼって読みあさっても不安がなくならなくて......結局勢いで決めるしかなかった。

怖くて怖くて、泣きながら注射を打ってもらいました。でも私の場合、結果的に満足できて、すごく前向きになれたんです。何が正しい情報なのかわかりづらい美容医療の情報格差をなくして、選択肢の一つとして美容医療をもっと知ってもらえたらと思い、『トリビュー』を立ち上げたんです」

中国や韓国では2013年頃から美容医療のクチコミアプリでの情報収集が主流となっており、日本でも同様のサービスに対するニーズが高まるだろうとの見込みも、毛氏の決断を後押しした。

ドクターと患者のミスマッチを減らす、“美容クリニックの食べログ”

2017年10月にローンチしたトリビューは、月間10万人のユーザーが利用するアプリにまで成長した。美容クリニックの体験談が写真とともに投稿され、悩みやパーツ、クリニック別に検索することができる。

ここ数年、SNSで積極的に情報交換をする人が増えてきたものの、「友人知人に特定されたくない」と検索除けされている投稿が多いのも事実だ。それはつまり、どんなクリニックでどんな施術をし、どんな経過をたどっているのか、体系的に情報収集するのは至難の技ということ。

トリビューではクチコミ情報を定型化し、実際に施術を検討するユーザーがクリニックを比較しやすいようなUXとなっている。わかりやすく言えば「美容クリニックの食べログ」。また、チャット形式でカウンセリングを予約する機能もあり、契約クリニックからの手数料などでマネタイズを行なっている。

「施術直後から完成するまでの間、腫れてしまったり内出血があったりして、施術前より不格好になってしまうため、みなさんすごく不安がるんです。そんなときに自分と同じような施術をしたユーザーの経過写真を見て、『3日目はみんなこんな感じなんだ』『10日目くらいでお化粧もできるようになるんだ』と、安心材料にもなっているようです」

一方、患者から“評価”される形になるクリニックからの反発はなかったのかと聞くと、意外なほど良い反応だったという。

「『こういったサービスが浸透すれば、業界全体が良い方向に向かう』『美容医療に興味を持つきっかけになれば』と、ほとんどの方に好意的に受け入れてもらいました。それに、来院される方があらかじめ積極的に情報収集してくれるので、不安解消の説明ばかりに時間を取られるのではなく、どんなイメージが理想なのか、どういうふうになりたいのかと、より具体的で本質的なカウンセリングに時間を割けるようになった、と喜んでいただいています」

どんな顔が“かわいい”のか、どんなスタイルが理想なのか。人の持つ美意識はあくまで主観的なもの。そこに美容医療の“落とし穴”があると毛氏は指摘する。

たとえば二重にする施術のとき、ドクターは『キレイな二重になりましたよ』と話していても、実は本人にとっては好みの幅じゃなかった、ということも起こるのだ。

「整形に失敗してしまった、とおっしゃる方の話を聞いてみると、そういったコミュニケーションの問題であることがとても多いんです。髪を切るときにも、そういうことがよくありますよね。スタイリストさんによって仕上がりが違うように、ドクターも施術のテイストや好みは異なるんです。だから、もっとドクターと患者さんのマッチングの精度を高めて、カウンセリングを“相談”だけでなく“合意形成”のための場にできればと考えています」

美容整形は“投資”のようなもの

最近ではタレントやモデル、インスタグラマーなど、美容整形を公言する人も増えてきたが、依然として美容整形に反感を持つ人や、「美容整形がルッキズム(外見至上主義)を助長しているのではないか」といった意見も少なくない。

それに対して毛氏は、必ずしも企業として美容整形を推奨しているわけではない、とつけ加える。

「さまざまな価値観があるなかで、『自然なままでいたい』という人も『キレイになりたい』という人も、それぞれいていいと思うんです。少し極端なたとえかもしれませんが、美容整形って“投資”みたいなものなのかな、って。投資にはリスクもあるけど、リターンもある。そのリスクを受け入れたうえで、それでも賭けてみたい、と思える人だけが投資をしますよね。ですから、あくまでキレイになるための選択肢の一つとして、美容医療や美容整形を検討する人にとって、価値のあるサービスを提供していきたいんです」

そして毛氏が目指すのは、トリビューの上場だ。「美容医療領域のメディアは他にも、アフィリエイトサイトや口コミサイトなどがありますが、正直、『怪しいな』と感じてしまうものも多い。クリニックは、広告出稿先としてGoogleやYahoo!のリスティング広告などに大部分を頼らざるを得ないのです。やはりまだまだ、美容医療にネガティブな印象を持つ方が多いなかで、私たちのような会社がしっかりとパブリックな存在になって、イメージを刷新していくこと。そして情報をオープンにすることで、美容医療を望む人が安心して施術してもらえる世界を実現することが、私たちのミッションなんです」

 

文・大矢幸世 写真・小田駿一