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2021年7月1日。

この日は、後世から歴史を紐解いたとき、日本経済のターニングポイントと評価される可能性がある。

日本初のIEO(Initial Exchange Offering)が実施されたのがその理由だ。対象のNFTユーティリティトークン「Palette Token」(PLT)は、わずか6分間で調達目標金額の9億3,150万円を突破。その後も申し込みは集まり続け、募集終了までに応募金額が224億円に達した。

7月29日の取引開始初日に、取引価格は最高値で公募価格の11.5倍を記録し、PLTの時価総額は一時460億円に達した。

規制が少ない代わりに投資家のリスクが高いICO(Initial Coin offering)ではなく、取引所が審査し信頼性が担保されたIEOを、世界でもっとも暗号資産の規制が厳しいとされる日本で成功させたことは注目に値する。

PLTの発行元であるHashpaletteの親会社であるHashPortの代表取締役、吉田世博は次のように話す。

「日本の規制はグローバルでもかなり先進的で、投資家を保護するため非常に複雑かつ厳しい基準が設けられています。

暗号資産を社会インフラの1つとして根付かせるためには、手軽さだけでなく、安全性を担保することが重要だと思いますので、日本国内で実施に踏み切りました」

規制の厳しい日本であえてIEOを実施した理由について問うと、次のように語った。

「今回のIEOの一番の目的は、ブロックチェーンの世界で新たなアセットクラスを確立することにあります。そこに先鞭をつけるため、ブロックチェーンの社会応用を支えるソリューションプロバイダーとしての範を自ら示したいとの思いがありました」

新たなアセットクラスの確立──この言葉に込められているのは、暗号資産やNFTが投機の文脈で語られることの多い現状に対する危機感と、ブロックチェーン技術が持つ無限の可能性だ。

「ビジネスではなく、経済史を創るのがHashPortの仕事」と言い切る吉田には、どんな未来が見えているのだろうか。

外資系戦略コンサルファームから見えた、ブロックチェーンの可能性


吉田がブロックチェーン技術と出会ったのは、暗号資産の第一次ブームが起こった2016年頃のこと。ボストンコンサルティンググループのデジタル事業開発部門で最年少のVenture Architect(投資・事業開発担当者)として上海に赴任していた。

「大学時代に交換留学で北京の清華大学に行った時の仲間たちが続々とブロックチェーンを活用したイノベーションを起こしていました。それに刺激を受け、私も帰国後は日本でいろいろと仕掛けていこうと考えていたのです」

ところが、吉田が帰国した頃には、大手取引所で多額の不正流出が起こった影響もあり、日本国内でのブームは急速にしぼんでいた。チャンスは潰えたかに見えたが、吉田の見立ては違った。大手が消極的な状況だからこそ、若手コンサルタントが価値提供する余地があると考え、HashPortの起業に踏み切ったのだ。

吉田のアントレプレナーとしてのセンスの高さは、その後の事業の進め方にも表れている。新しい暗号資産を上場させたい暗号資産交換業者と、続々と日本上陸を狙う海外の暗号資産プレイヤーたちを、積極的にサポートしていったのである。

この事業によりビジネスを軌道に乗せただけでなく、“将来”を見据えた上で、知見とプレゼンスを獲得していった。

「2019年以降に国内で新規取り扱いが開始された暗号資産の9割近くに、弊社のコンサルティングを提供できました。今後さらに研究開発力を高めていくために、高い技術力を持つ東京大学発のブロックチェーンベンチャー、フレセッツと経営統合しました」

この経営統合により、HashPortは、コンサルティングからシステム導入まで一気通貫で暗号資産サービスを提供できる暗号資産業界では稀有な企業となる。

そのポテンシャルは投資家間で非常に高く評価されている。2021年3月には東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)およびセレスから3.5億円の資金調達を実施。また、8月には、ZOZO創業者の前澤友作氏より、4.8億円を調達している。

東京大学大学院工学系研究科と密接に連携して暗号学やセキュリティに精通したエンジニアを多数チームに加えるなど、ブロックチェーンのソリューションプロバイダーとしての地歩を着々と固めている。


すべてのアセットに光を当て、価値が多元化した豊かな社会へ


こうしてリソースを整え、HashPortが成し遂げようとしているのは「すべてのアセットをデジタル化する」ことだ。

「本来は価値があるのに、十分な流動性がないためプライスがつかないものがいろいろあります。そうしたアセットをデジタル化することで、埋もれていた価値に光を当て、より豊かで多様性ある社会の実現に寄与したいのです」

たとえ実在していても、その情報が知られていなければ存在しないのと同じだ。しかし、優れた非改ざん性を持つブロックチェーン技術を活用すれば、誰でもアクセスできる「アセットのインターネット」が生まれ、価値の多元化した社会が実現する。

「コミュニケーションの変化と同じイノベーションが起こせると思うのです。携帯電話やメール、チャットなどの普及で、対面で話す同期的なやりとりは減ったかもしれませんが、非同期のコミュニケーションが可能になることで、手段が多様化して活発化しました」

「すべてのアセットをデジタル化する」というビジョンの下、暗号資産業界で圧倒的な実績を積み上げてきた、HashPortが次に注目したのはNFTの領域だ。

デジタルアートや電子映像が破格の高値で取引されていることに注目が集まっているNFTだが、HashPortの目指すのは、そうしたセンセーショナルな“結果”とはかけ離れた地道な基盤づくりにあるのだ。

「マンガやゲーム、音楽といった日本が世界に誇れるコンテンツというアセットを世界に届けるためのプラットフォームとして、NFTは将来重要な役割を果たすようになると考えています。そのための技術面・規制対応面の基盤作りをぜひ弊社で担いたいです」


ミレニアル世代にとって、“最後”のビッグウェーブ


HashPortがNFT市場に参入したのは、NFTという単語もまだ多くの人が認識していない2019年だ。その時にNFT特化ブロックチェーンという事業テーマを選んだ理由を次のように話す。

「NFT特化したブロックチェーンに関するニーズをずっと認識してきました。いわばイーサリアムのような汎用型ブロッックチェーンはパソコンで、弊社のパレットのようなNFT特化ブロックチェーンはゲーム機。パソコンは性能の高さが求められますし価格も高いですが、ゲーム機ならば低コストでユーザーにとって使い勝手の良いものができます。また、NFT特化ブロックチェーンを起点に、コンテンツホルダーに対する技術面・規制対応面のサポートをワンストップで提供していきます」

吉田がベンチマークとしているのは、世界でもっとも取引高が多いNFTサービスである「NBA Top Shot」やその基盤ブロックチェーンである「Flow」を開発する米国のDapper Labs社だ。

Dapper Labsは、今年3月末に評価額26億ドル。アンドリーセン・ホロウィッツやユニオン・スクエア・ベンチャーズといった一流投資家から3億500万ドルを調達しており、NFT業界への注目度の高さを物語っている。

HashPortが開発を主導するパレットも、同じようにグローバルで存在感を発揮するブロックチェーンにしていくと吉田は力を込める。

「日本のコンテンツは、世界で多くの人に愛され、強い競争力を持っています。日本のコンテンツパワーをレバレッジして、世界市場で戦える日本発のブロックチェーンサービスにパレットを成長させるのです。

技術面では、暗号資産を使わないユーザーも利用できるUXや、パレットで発行されたNFTを複数のブロックチェーンで使えるクロスチェーン機能などの基盤インフラを整備しているところです。世界的にみて、最先端であると自負しています。

規制対応面では、2021年7月14日にはアンチマネーロンダリングの世界的大手である英国のEllipticとも業務提携を結びました。随時変化する規制環境に対応し、NFT事業者の法的リスクを軽減して安心してサービス提供できるようサポートすることが目的です。

こうして、日本のコンテンツホルダーがNFTを通してグローバル展開するための基盤を提供し、コンテンツというアセットが流通する仕組みを変えていきたいと考えております」

新たな経済の仕組みを着々とつくりあげ、社会に良質なインパクトを与えようとしているHashPort。「自らが経済史の“次の1ページ”をゼロからつくりあげる」という強いWillを持ったプロフェッショナルが活躍できる環境だと吉田は話す。

「私もそうですが、ミレニアル世代は悔しい思いもしてきたと思うのです。インターネットやモバイルの大波は見てきたものの、まだ世代的に主体的な活躍はできませんでしたから。

NFTをはじめとするブロックチェーンは、そんな私たち20代、30代がようやく力を発揮できるビッグウェーブです。この絶好のチャンスを逃さず、グローバルで日本発のチャレンジをしていきたいと思う方はぜひジョインしていただきたいですね」

文・高橋秀和 写真・小田駿一

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【編集後記】

ゲームチェンジャーはどうしても叩かれる。
威勢のいいことを言ってしまえば、その発言だけが切り取られ、敵が増える。

吉田氏はそのことを十分にわかっている。取材中、とにかく言葉を丁寧に選び、丁寧に紡いでいた。美しすぎる経歴を持ち、この事業においても確かな結果を残してきているが、そこに驕りなど一切感じられなかった。

これはあくまで私の言葉だ。きっと彼は何をやっても、どこに行っても成功するだろう。
このビジネスをやっている理由は単にワクワクするから、そんな感じではないだろうか。

彼の言葉には力がある。そんな魔力に、かの前澤友作氏も惹きつけられ、個人での大きな出資を決断したのではないだろうか。

やはり、イノベーターの話を聞くのは面白い。

編集・後藤亮輔(Forbes JAPAN CAREER 編集長)