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「コンサルティング会社なのに合理的じゃない」、KADOKAWAはアバナードをこう評する。これに対し、「合理的じゃないことは褒め言葉だ」とアバナードは受け取る。

埼玉県所沢市に誕生した、「ところざわサクラタウン(以下、サクラタウン)」。日本を代表する総合エンタテインメント企業であるKADOKAWAが運営する大型文化複合施設で、KADOKAWAと埼玉県所沢市の共同プロジェクト「COOL JAPAN FOREST構想」の拠点施設でもある。

約4万平方メートルの敷地内には新オフィスはじめ、イベントホール、商業施設、神社などが揃う。そして、KADOKAWAでは初の試みとなるホテル事業も。

これらのプロジェクトを手掛けたKADOKAWAの隣には、パートナーの1社としてコトビジネス領域に関わったコンサルティング企業のアバナードがいた。

“合理的ではない”ことの是非はどこにあるのか、同施設の成り立ちを両者が振り返った。

“テンプレートが通用しない”仕事への向き合い方


「本当にやるのか」

言葉の主は、アバナードのアドバイザリーサービス シニアディレクター 工藤雄玄だ。サクラタウンの話を聞いたとき、KADOKAWAの挑戦に驚いたという。

サクラタウンがある東所沢は、関越自動車道・所沢ICから近く、貨物の通るJR武蔵野線も走るなど、物流の拠点としては理想的な場所だ。倉庫や物流会社のデポがあり、成田や羽田、我孫子までアクセスできる。

そこに「オフィスをつくる」「観光地をつくる」となったとき、コンサルタントはどう返答するか。

「そんな需要はない」は、つい口にしたくなる言葉だろう。人が集まるという印象の持ちにくい場所だからだ。

ただ、工藤は違った。可能性が1%あるものは100%にできる、小さな数字の可能性に、むしろ心が躍った。

「狙いは需要を作ること」と、KADOKAWA執行役員でありサクラタウン総支配人の横沢隆氏は語る。

「サクラタウンは出版の製造・出荷機能、オフィス、ミュージアム、ホール、ホテル、飲食店、ショップなどがあり、施設が複合化するだけでなく、来訪来客の方も複合化されていく。この手のタイプの複合化への知見を持つ人はそういない。だからこそ、総合的な経験値の高い人が必要だった。当然、システムを構築する部分もあるので、ITの分野にも強くないといけない」(横沢氏)

複合化された施設をつくるうえで、KADOKAWAがどのようなキャラクターで事業をしているのか、「多くの日本人にきちんと認識されていない」と工藤は仮説を立てた。インバウンド顧客も視野にいれ、どのようなコンテンツがこの施設で刺さるのか。マーケティング調査からコンテンツのあるべき姿を導き出すことを優先した。

また、大組織では大きな責任が伴う判断が必要なため、確認に時間を要す。出てきた解を共有するため、トライ&エラーを繰り返し、双方で同じ絵を描くことを心がけた。横沢氏の評価はこうだ。

(左)KADOKAWA 執行役員 サクラタウン総支配人 横沢隆氏
(右)アバナード アドバイザリーサービス シニアディレクター 工藤雄玄

「KADOKAWAは言ってみれば世界観メーカー。そこに新たに『体験』という面白さを加えるためには、テンプレート的な返答では出せない答えが、今回のチャレンジには必要でした。そんな中、FS(Feasibility Study)や事業計画を仕立てるといった数字に立ち向かう大変な作業に対して、我々の話を真摯に聞き、反映し続けてくれたのです。『これでいこう』とKADOKAWA内で結論が出たという点が、何よりの評価です」(横沢氏)

今回のチャレンジは、まさに前例のないものだ。

KADOKAWAの社是である「不易流行」。これは松尾芭蕉の俳諧理念で、「お客様に寄り添い、新しいものも突き詰めていけば、絶対に変えられないものや変わらないものに気がつく」という意味をもつ。

同社はこれまで、ライトノベルやアニメから、俳句、短歌、辞典など様々なコンテンツを扱ってきた。そして、今回のサクラタウンのミュージアムには、出版物、映像、アニメ作品が並ぶ。館長・松岡正剛は、コンセプトを「まぜまぜ」と表現した。

また、施設内には製造・物流の工場やオフィスがありながらも、訪れた地元住人、観光客に向けてのサービスも展開。私有地でありながらも公開空地となっており、ここも“混ざっている”。

「サクラタウンの魅力は、ダイバーシティという言い方もありますが、不易流行なのかも知れないし、『まぜまぜ』なのかもしれない。そこに難しさがあります。なんとなくイメージはできるものの、実際に構築して運営する、そのための数字を徹底的に考える。例えば椅子一つでも、従業員のため、観光客のため、ビジネス来客や通行人のためと、何を使いどう置いてどのように管理すればいいのかを考える必要があります」(横沢氏)

こういった構築の場面では、一つ動かせばもう一つのドライバーは逆に回るという事態も。これを一つひとつ紐解き、どの状況がベストであるのかを想像力を持ちながら落とし込む、思考の体力は相当必要となるだろう。工藤は振り返る。

「総合エンタテインメントを生業とする会社ですから、『いいね』『美しいね』といった右脳の世界が大事で。また今回は、数字について考える左脳の世界も必要です。両者のバランスが取れて新規事業が成り立つものなので、KADOKAWAの皆さんの『企画・数字に強い』といった能力を、いかに引き上げて共に限界を突破できるかにこだわりました。事業計画の数字を達成するだけでなく、そのために必要なサービス・コンテンツが何かと、構造化して整理することも意識しましたね」(工藤)

形になっていない、欲しいものがわからないところから相談できることが、アバナードの強みであると、横沢氏も頷く。

「いろいろと話を聞いてもらい、『あなたが欲しいものはこれですよ』と返事がある。そこに対して『いま持っていますか』という問いがあり、『これが出せる』と、キャッチボールが始まる感じです。リクエストに対して答えるといったテンプレートでは決してない。コンサルなのに合理的ではない、でもそれが彼らの良さなのです」(横沢氏)

まずなにが悩みなのか、悩みの解消になにが必要なのか、コンサルはそもそも必要なのか、別のコンサルの方がいいのではないか、そういったところまでを提案していった。

「コンサルタントは、『できない』とは言えない職業。本来合理的であるべきですが、私のチームのメンバーは、無茶ぶりをされるとアドレナリンが出るのですよね(笑)。『面白い』と。ありきたりなことよりも新しいことを!と、グイっと前のめりになるのです」(工藤)

第三者という視点を保ちながらも助言だけでなく、中に入り込んで仕事することも。例えば、プロジェクトマネジメントをするなかで、課題を指摘してもKADOKAWA側にリソースが足りない場合には、タスクを巻き取る。

「これぐらいでないと楽しくないですし、皆さんと共に色んな課題と打ち手を腹落ちさせていただいたことが、私たちの満足感にもつながりました。横沢さんには『合理的じゃないよね』と言われましたが、お褒めの言葉として受けています(笑)。また、ご一緒させてもらうなかで横沢さんの、『IPのアウトドア』という言葉が大変印象的でした。ゲームやマンガ、アニメといったインドア寄りのIP(知的財産:Intellectual Property)を、リアルに外へ出す。そのための今回の施設づくりでもあるのですよね」(工藤)

横沢氏もこれに加える。

「ゲームやマンガなど、一生懸命に作られた世界観は、多くの人たちの“好き”を作る。そして、ユーザーはもっと深く好きになりたいはず。ならば、その好きが集まる場をつくる。そして、より実感が持てるようなサービスを届けたいのです」(横沢氏)

我がゴト化が生んだ、KADOKAWAとの絆


KADOKAWAの持つ、家で楽しんでいたアニメ文化が、家の外に飛び出す。

サクラタウンの目玉的存在、EJアニメホテルのコンセプトは「好きな物語に、泊まる。」だ。様々な物語の部屋が用意され、そこに泊まりに足を運び、自分の好きにどっぷり囲まれる。インドアにあった、「読む」「見る」「楽しむ」が、今後は、家の外でEJアニメホテルにて「食べる」「泊まる」「触る」に変わっていく。極めて新しい仕掛けといえよう。

KADOKAWA レクリエーション事業局ホテル部 課長の森脇聖氏とアバナードの鈴木聡一郎は、今回のプロジェクトでホテル事業への挑戦を中心に現場を経験した2人だ。経営企画室出身の森脇氏にとって、前例のない業務となり、どう輪郭をつくって、マネタイズしていくのか、まさにゼロからのスタート。

ではアバナードはどのように関わったのか、もう一つ深い階層で振り返る。

「KADOKAWAの方々は企画のプロです。一方で、これまでここまで突き詰めて採算を考えなければならないシーンは少なかったと思います。なぜかというと、大きくマネタイズできるヒット作品が生まれているから。ただ、今回は桁外れの先行投資が必要になる施設事業、確実に投資回収をする必要があります。皆さんの考えを聞きながら、具体の数字をアップデートしていきました」(鈴木)

特に今回は、角川文化振興財団や所沢市との関係性もある。センシティブな連携を行ったという。現場で見ていた森脇氏の評価はこうだ。

(左)KADOKAWA レクリエーション事業局 ホテル部 課長 森脇聖氏
(右)アバナード アドバイザリーサービス グループマネジャー 鈴木聡一郎

「出版事業のいまの状況を見れば、変化が迫られている。事業ポートフォリオや収支構造のみならずそこで働くスタッフ個々人の意識や能力を含めてトランスフォーメーションの必要があります。ただ、理解はしていても、それぞれに業務を抱える中でものごとの見方が全員一致することは難しい。10年後も20年後もこの会社にいてどう働くか。そんなことを考えているときに、アバナードさんは非常に頼りになりました」(森脇氏)

一般的なコンサル業だと納品で終わりになる。OJT代わりに若手を常駐させるケースもあるだろう。それでは今回のKADOKAWAのプロジェクトは成功しない。

「私の立場になっていただくことも多かった。例えば、『このような役職、ポジションの人にこの問題意識を伝えたい』と説明すると、『確かにいま言いたいことだろうけど、もう少し後の方が浸透しやすい』と立場や状況を鑑みてアドバイスをくれる。優先順位や落としどころ、事業として守るべき点などを理解して、我がゴトのように向き合ってくれたことに感謝しています」(森脇氏)

「会社対会社」ではなく、一人の人間として向き合う


アバナードの流儀として「客観的に見ているのか」の問いに、鈴木は首を横に振った。

「もちろんコンサルという社外の視点で客観的に考えなければならないことはありますが、どちらかというと、『お客さまの事業について、自分の好きなものを通して見る』、という感じです。僕はアニメが好きなので、アニメを通してお客さまのコンテンツや業務を見る。趣味と紐づけながら、楽しく見る土壌を作っておき、お客さまに愛を持ちつつ一歩引くのです」(鈴木)

ただし、クライアントの担当者の孤独には、しつこいくらいにフォローする。徹底的に話すことにこだわった。

「今回のプロジェクトでは最も特殊なのがホテル。KADOKAWAにとって全くの新規事業はホテルです。宿泊事業だけはこれまで未経験ですから。未知の領域でしたので、横沢さんも森脇さんのラインを特に気にされていたように感じました。だからこそ、とにかく話を聞きました、雑談からあらゆる悩みまで」(鈴木)

ホテル以外の事業はKADOKAWA内でキャリアの長い人が担当するなか、経営企画室だった森脇氏がホテル事業を担うことになった。この状況に対してアバナードは、「会社対会社」の立ち回りではなく、一人の人間として向き合った。「だからこそ、発注側も人間を見て発注するのでは」と森脇氏は話す。

コンサルであれば、例えば今回の施設事業なら、それをモデルケースにパッケージ化して横展開できるかどうかも一つの仕事のポイントと考える。

しかし、アバナードにとっての優先度は面白いかどうか。新しいことに飛びついて一緒に考えることを優先するのだ。どこまでも合理的ではないチームである。

「KADOKAWAがこれまで作ってきたのは、何よりも『面白さ』です。この面白さって、そもそも合理的なものではない。企業風土として、ファンの文化を理解し、面白いことを作ってきた会社ですから、我々もKADOKAWAの皆さんの考えをしっかり聞きつつ、合理的じゃない方法でこのプロジェクトに一緒に挑む。それが何より大事だと思い、動きました」(鈴木)

角川武蔵野ミュージアムは、サクラタウンのランドマーク的な位置づけ。アート、文学、博物のジャンルを超え、あらゆる知を再編成した、世界で類を見ないミュージアムだ。そして、隈研吾がデザイン監修した特徴的な建物となっている。

改めて施設のオープンについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「気づけばこれまで何年も一緒にやっていますね。結果、施設のオープンを一緒に迎えられたことは非常に嬉しく思います。そして、これが新しい“面白い”の始まりだとも思いました。今後もその“面白い”を一緒に追求したいですね」(森脇氏)

文・上沼祐樹 写真・小田駿一

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【編集後記】

仕事をしていればある程度はわかるだろう。
「この人は自分に期待してくれているな、信頼してくれているな」と。

今回2組、4名にインタビューをさせていただいたのだが、その2時間で色々な種類の「信頼」に出会えた。

工藤さんなら絶対に形にしてくる、という横沢氏からの強い信頼。
鈴木さんならいつだって寄り添って併走してくれるという、熱い信頼。

そして2人のコンサルタントに対して寄せられる、プロとしての信頼

何故、ここまで信頼してもらえるのか、ふと思ったのだが答えは簡単だ。
積み重ねたプロとしての実績と、まっすぐに人と向き合う人間的な魅力。

コンサルタントという表現はどうしてもドライに聞こえてしまう。
いうならば、彼ら2人、そしてその後ろにいるアバナードの社員たちはまさに、「パートナー」と評していいのではないだろうか。